留学斡旋団体とは

~ 言葉だけが一人歩きしている日本の国際化・グローバル人材の育成を問う ~

 交換留学事業の多くは、国の認可を得ている公益(財団)法人やNPO法人のような営利を目的としない民間の斡旋団体によって運営されています。 そのなかには半世紀以上にわたり日本の高校生の留学事業をリードしてきた、国が所管している斡旋団体も含まれています。 しかし実績があるといわれるこれらの団体であってもチェック体制が整っていないために、高校生の留学は被害やトラブルにさらされています。 留学事業において本来ならフィルターの役目を果たすべき大人が子どもの危機的状況に対処できていない現状を考えると、国が勧める交換留学制度がもたらす光と影、 特に影の部分を十分理解する必要があります。ここでは斡旋団体が抱える組織と個人の問題を中心に書いてみたいと思います。

≪斡旋団体の良し悪しとは≫

 留学を考えている高校生や保護者の方から「お勧めの斡旋団体を教えてほしい」という問合せがよくあります。 しかし留学の良し悪しは現地の団体の出来不出来に関わることだけに、答えようがなく困ってしまいます。 事前説明会やオリエンテーションでは、どこの斡旋団体もサポート体制が整っていることを強調します。 ところがじっさいには現地のサポートが不十分、あるいは全く機能していないことはよくあることで、留学生自身の適正や本人の努力とは関係のないところで多くのトラブルが発生しています。 (「被害の実態」「何も知らない日本の親子」のページで確認できます)留学先でのトラブルの頻度やその程度は、現地の交流団体のレベルに左右されるものだと理解されていないようです。

 そもそも高校生の交換留学は、ロータリー財団や一部の姉妹校提携による交換留学以外は同じ制度の下、世界規模で行なわれているものです。 日本の斡旋団体は(一部を除き)海外にある団体の客集めの窓口であって、保護者説明会やオリエンテーションはするものの、留学生が現地に行くまでのお手伝いをするだけのものです。 出発するまでのサポートがたとえ良かったとしても自国を出発するとケガや病気等でない限り、日本の団体が現地の団体に対して動けることはほとんどありません。 ある斡旋団体の代表者は「子供が空港の搭乗口に入った瞬間から自分たちに責任は無い」と言い放つほどです。この互いに相手国に干渉しない、という留学制度の盲点に私たちは注目すべきです。 窓口である日本の団体の評判と現地の団体が信用できるか否かは別問題だということ、さらには善意の有無に関わらず、この国の隔たりを物理的・心理的に活用してビジネスを行なっているのかもしれません。 ホスト家庭についても実際に留学してみてファミリー先が良ければラッキーで、心配するようなことが起きれば不運となるのかもしれません。 がしかし、本当のところは、構造的・組織的な問題なのです。斡旋団体のホームページに載せられているような「楽しかった体験談」はその経験者だけのものなので、 自分の身を守るという危機管理の観点からも「ラッキーな誰かさんの経験談」だけを参考にしないで欲しいと思います。

 アドバイスとしては、交流団体が主催する交換留学は問題が多いので、姉妹校提携で行われているもの、斡旋団体を介していないロータリー交換(注1)、私費留学)(注2)にする、 あるいは大学生になって行く等、他の選択肢も視野に入れて考えることだと思います。 それでも行くと決めた場合には留学団体が表に出したがらない被害者の体験を参考にして(「被害の実態」のページで確認してください)、トラブルを最小限に止めるための準備が必要です。

(注1)数ある交換留学プログラムのなかで唯一、危機管理委員会(外部有識者2名以上含む)が設置されており、 学生と保護者に性的虐待およびハラスメントを含む全ての危機に対する予防策と解決方法も情報提供されています。 これら成立に至るまでのプロセスについてはトップページの<トピックス>にある 『ロータリーは07年に危機管理委員会(外部有識者を含む)を設立』にてご確認ください。

(注2)年間250~500万円はかかるといわれる私費留学ですが、北米でも田舎の公立高校であれば授業料とホームスティ代で120万程度のところもあります。 実際、高校生の交換留学制度での派遣先の殆どは郊外や田舎なのです。応募の手続きは以外に簡単なので自力でやってみるのもいいかもしれません。

≪安心・安全・安価について≫

 高校生の交換留学を主催している団体(非営利の公益法人、財団法人、独立法人など)は、営利を目的とした斡旋会社とは違い善意に基づいた非営利組織だと好意的な印象を受ける人もいるでしょう。 しかしその実態はよくあるエージェントと同じ、あるいはそれ以上に悪質なものもあるかもしれないということです。 トラブルやクレームに対する根本的な解決策などそっちのけで、ピンチをチャンスにと大手旅行会社から講師を招いて研鑽を積むなど、本当のところはビジネス最優先なのです。 それに非営利団体であれば利益優先のイメージがある一般のエージェントよりも儲けは少ないのでしょうか? 渡航費も含めて120~150万円位だと留学費用としては安く、団体としての儲けは少ないように思えます。 ところが、高校交換留学は善意の無償ボランティアで成り立っているプログラムなので、授業料と滞在費は原則免除です。 つまりは非営利の団体だから利益が押さえられて安価なのではなく、 もともとローコスト(渡航費と運営費は必要だが授業料と滞在費は原則かからない)のものを120~150万円程度で売って儲けを出している仲介(斡旋)業であることに変わりないのです。

 ということからも被害やトラブルの情報を公開しない限り、国が推進している交換留学プログラムを使って何も知らない高校生をターゲットにビジネス展開していることになるでしょう。 一見すると高校生の交換留学はガイドラインも示されており現地での安心安全が国に保障されているようですが、じつのところそうではありません。 国が保障しているのは「交換留学プログラム」そのものであって、留学先での安心安全については安心できないことが文科省において確認されていないだけなのです。

≪権威を疑うこと≫

 2004年にアメリカのファーストフード店のあちこちで、警察官を装った犯人の言葉をいとも簡単に信じてしまった大人たちが、少女たちに無実の罪を着せてしまうという事件がありました。 (注1) 世間一般で権威あるとされている人の言葉に他愛もなく騙され振り回されてしまう、権威あるいは一見権威あるように思える人や組織に対しては実に安易に服従してしまうことはよくあります。 さまざまな権威、尊敬される、あるいは権威ある人物を使って、自分たちの意見や目的や方法が正しいことを知らしめるやり方には気をつけなければなりません。

 このようにある種の権威を用いて質を保障する仕組みは私たちの身の回りにいろいろあります。 高校生の交換留学事業もまさにその一つだといえます。だからといって権威それ自体は悪いことではなく、私たちの生活は、親や先生、あるいは伝統だったり、様々な権威にその多くを頼っています。 ただ、良くない権威を権威として無批判に受け入れしまうことが問題なのだと思います。 官民が連携して社会的意義のある事業に取り組んでいるといえば聞こえは良いのですが、その実態は国の認可を得ていることをいいことに、 社会的に責任ある立場の人たちが留学先での多くの被害を承知の上で高校生を送り込み被害が生じているのです。(*注2)

(注1)「コンプライアンス」2013年作品(実際の映像含む)

(注2)「被害の実態」のページ参考

≪倫理感の欠如≫

 現地での子どもたちの酷い状況は留学関係者ならわかっています。それなら例え存続の危機にさらされようとも、今ある制度を一旦中止しプログラム内容を見直すべきだと考えます。 しかし彼らは半世紀もの間ずっと、被害の現実を目の当たりにしても一度も立ち止まることはありませんでした。 なぜなら団体関係者は彼らなりの大義を振りかざせば、疑惑や不信感、不満があっても大抵の人は黙ってしまうことが分かっているからです。

 たとえば、国策として原子力発電を推し進めてきた原発関係者が、事故後も自分たちの保身のために原発を再稼動しようとすることからもわかるように、 彼らなりの大義名分を出すわけです。今もなお福島の子どもたちの多くが放射線管理区域並みの地域に住まざるを得ない状況が続いていようとも(注1)、 この事実を見て見ぬふりをすることが人や組織が守るべき最も大切なことであると、反倫理的な大義のようなものが出来上がってしまっています。 このような間違った権威や大義名分の下で一番に犠牲になるのは政府や大人に文句を言えない子どもなのです。

 斡旋業であっても未成年者を対象とした教育プログラムを扱う以上は、それなりの倫理基準が求められるべきだと私は思っています。 しかしながら政治が「倫理」という視点から一度も語られたことのない日本では、留学団体の社会的責任が問われることなどありませんでした。 自ら作成したガイドラインを無視するだけでなく、被害やトラブルを防止するために設立したはずの「高留連」をトラブルが絶えないという理由で解散する(注2)、 子どもに責任転嫁することで責任逃れをする、被害を隠蔽する等のこれらの行為はたとえ違法でなくとも反社会的な言動といえるのではないでしょうか。 しかしこのような大人の姿は何も特別な人ではなく、彼らも仕事を離れればごく普通の何処にでもいる子ども好きのおじさんやおばさんだったりするのかもしれません。 そのような普通の人たちであっても仕事というスイッチが入ると、あれはあれ、これはこれとなるのだとすれば、 そこには彼らなりの使命感や言い分もあり罪悪感がまったくないだけに始末が悪いともいえそうです。不祥事が発覚する度に、 留学を台無しにされただけでなく子供の人生さえも狂わされてしまった保護者に対し、「私は聞いていなかった。速やかに原因を究明し再発防止に努める」 と当事者意識のない返答を口にするようでは、組織の存続のためには、被害に遭っても我慢させるという彼らの思い込みが変わることはないでしょう。 不正の裏には必ずこのような人間の心理に基づいた個人の行動、組織の問題(注3)が潜んでいるものなので、そこまで踏み込んで打開策を打ち出さなければ根本の解決にはならないと思われます。 消費者運動やオンブズマン活動、もちろん法的整備も必要ですが、それだけでは問題が解決できるとは思えません。

(注1)Report on the Fukushima Dai-ichi Nuclear Disaster and Radioactivity along the California Coast.

(注2)トラブルや被害の増加から高校生を守るために「海外留学プログラムガイドライン」の必要性が生じ、 そのガイドラインに沿って留学プログラムが運営されるようにと1992年6月に設立された「高留連」ですが、2013年6月に廃止となっています。 廃止に至ったプロセスとその理由、なぜ問題なのかについては、トップページの<トピックス>にある『いつのまにか無くなっていた「高留連」と「ガイドライン」』をご覧下さい。

(注3)「強い力を持つ組織のほとんどでは、手っ取り早く、面倒な工程が省かれたり、目的が手段を正当化する」的な手法が選択されたりする。 閉じられた扉の向こうで、白日の下に晒されるとまず許されるはずのない多くのことが、慣習として行われている。 これらの慣行は多くの場合、きわめて悪質というほどのものではないが、何らかの形で恥ずかしいものであったり道徳的に問題があったりするものだ~」 続きは→<透明性への耐性を備えた組織を設計する>(MITメデイアラボ 伊藤穣一)

≪グローバル人材育成とは≫

 そもそも留学事業は国策であり文科省は2013年9月、ここでも官民連携のグローバル人材育成プロジェクトを新たに立ち上げています。 (注1)日本人留学生の倍増計画が発表され、2020年をめどに高校生も6万人を目指すということです。 これまで文部科学省「高校生海外留学派遣支援金制度」の実施を担ってきたJAOS(一般社団法人海外留学協議会)も、 「世界に貢献できるグローバル人材」育成のための留学推進を、産官学が一体となって取り組むとしています。そんななか危機管理についての議論は行われているのでしょうか。 派遣先国においても従来の英語圏でのホスト家庭の確保が難しいとなれば、集客のためには治安も生活水準も無視して派遣地域を拡大し留学費用を値引きしている団体もあるぐらいです。(注2)

 さて、自分の考えをきちんと伝えることなく既存の権威によりかかることで安心してきた日本人が、多様な海外での事故やトラブルにどこまで対処できるかという難しい問題が横たわっています。 これについては、産官学の連携体制が整っていない日本で立場や考え方の違う者同士が意見を交換したり討論することも苦手となると、リスク管理、人材教育の体制を確立することは可能でしょうか。 国や業界から被害に対処するために必要な情報が提供されていない今の状況では、意思決定すらもできない状態なのです。 この国の中で留学斡旋団体を所管している省庁が、被害の事例を把握することなく認可を与えているこの状況を一日も早く解消すべきだと思います。

 高校生の交換留学では未成年であっても自らの行動に責任が求められる以上、正確な情報が与えられるべきだと思います。 ホストによる性的虐待のこと、ドラッグ、あるはずのないお金の介在、銃社会、名ばかりボランティアなど、決してきれいごとばかりではありません。 大人が知り得るすべてのことを伝えても万全というわけではありませんが、それさえ子どもには与えられていないのです。 何も知らず、何も知らされず、留学関係者に翻弄されながら貧しい食事さえもこれが欧米式と我慢させることが、子どもの自立を促しグローバル人材の育成につながることではないはずです。

(注1)「トビタテ!留学JAPAN」文部科学省

(注2)東南アジア・東南アジア・中南米は130万円が20万円引き p.62 (←すでに削除されています)

≪公益法人とボランティアとしての位置≫

 ボランティアで何十年も団体の地区委員として活動にかかわっていても、常勤役員の給与や退職金がどれほどなのかさえ知らないことに驚かされます。 奉仕活動に真面目に携わってきた人たちほど、自分が支援している組織の上部で何が行われているかを理解していないのです。 どこからどんな資金が入りそれがどのように使われているのかも全く知らず、常勤役員の高額報酬(注1)、公益法人における還流の仕組みなど(注2)知る由もありません。

 省庁の関連団体に一定の地位で迎えられることで生じる官民の癒着、非営利団体にもかかわらず常勤の団体役員には結構な報酬が支払われるなど、 半世紀の間に生じたこのような利権の構造がチェック機能さえも失わせてしまっています。確かに表向きにはほとんど儲けはなくむしろ赤字だと聞かされていますが、 どこかで誰かが、それもごくわずかの者だけがいい思いをしているはずです。でなければ常勤役員の高額報酬や退職金が存在するわけがありません。 理事や役員職にある人たちにやましいところがないというのであれば、被害者からの申し立てを無視したり一方的に連絡を中断するのではなく、 最後まで話し合いに応じてしかるべきですよね。はたしてどのような人物が統制しているのでしょうか。 「非課税という特権の下で、ボランティア活動の仕組みをうまく活用することで人とお金を集めている」「国が所管している斡旋団体の実質上のトップらが30年以上も変わっていない(2014年現在)」 「子供の人生をも預かっているという大きな責任を全うするだけの心構えがない無能な人間が重要なポストにいる」このような制度の形骸化は組織から自然発生的に始まるのではなく、 必ず人がもたらすものだと思います。

 さて、私費留学に比べて交換留学の費用が安いのは無償で働いているボランティアの人たちの支援のおかげだと言われます。 そこで留学生活を無事に終えた生徒とその保護者が、お世話になったお礼にとボランティアで団体の活動を支援するのはわからないことではありません。 しかしここで考えてほしいことがあります。団体からの理不尽な扱いによって中途帰国になった人たち、留学先で酷い被害に遭った人たちのように、 無事に留学を終えることができなかった人たちのことが、ボランティア活動の中では除外されていることです。助けを必要とする人たちを支える、 という一番重要なところが支援活動から抜け落ちているのです。おそらくそれは、いろいろあってもそれなりに留学を終えることのできた帰国生たちが、 和気あいあいと親交を深めるなかで排除されてきたのだと思われます。やはりボランティアは楽しくなければ続けられないものなのでしょうか。

 支配的立ち場にいる人にとっては、自分の事だけを考える人間の集まりであればあるほど都合が好いと聞かされます。深く物事を考えようとせず、 団体側から与えられた価値を疑わずに忠実に動いてくれる人ほどいいわけですよね。 ところで、人は誰も本当のことは書かないし言わないものだとしても、組織の構造を丁寧に見ていくと、 すべての価値観と常識は搾取する側にとって都合良くシステマティックにできていることがわかります。いままで「必要なもの」「夢や希望」と思っていたことさえも、 支配者側の利益になるようにうまくコントロールされていることに気づくと、すべてが虚しくなる気持ちもわからないではありません。 しかし、社会の持つ問題や矛盾の多くは、社会的弱者である子どもに対して最も凝縮して現れると考えられます。 高校生の交換留学問題も子供が被害に遭っているだけに改善が急がれます。

 近頃では、日本でも内部告発が取り上げられるようになり、重大な不正はこの内部者からの告発が発覚のきっかけになっているようです。 これまでは組織の不正を告発する際には組織を退いて外部から訴えていたものが、あえて内部に踏み留まって組織に本来の姿を保たせるために尽力する人がでてきたのだと思います。 私たちがこの内部から声を上げるという行為に目を向けることは、私たちそれぞれが属する組織の未来を問うことであると同時に、自分自身の本来あるべき姿を自問することにもなります。 留学関係者及び支援者らがこの被害問題に自ら進んで向き合い、解決しようとする日が来ることを願ってやみません。

(注1)「斡旋団体における常勤役員の報酬例」 詳細についてはトップページにある<トピックス>『知らされていない留学団体役員の高額報酬のこと』をご覧下さい。

(注2)平成20年度包括外部監査結果の概要 P.8-9
公益法人に対する補助金の見直しの状況 p.6
平成24年度決算報告貸借対照表

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