トラブルに対処するために

 出発前にいろいろあったとしても、保護者の多くは団体が信用できないものだと思っていないため、 渡航後にトラブルが発生して初めて気づくことになります。 一方、留学業界をよく知る親の場合は、出発前までにホストファミリーが決まらない時点で、団体に対し返金要求するなどの的確な判断が下せるようです。 ただし、ホストファミリーが決まったからといって安心できるわけではありません。 ホストファミリーが決まってないのに決まったとウソをついて渡航させるからです。しかし理由はそれだけではありません。 ホスト先でのトラブルについては個々に事情が違ってくるため、説明会で留学団体が示すマニュアルなんて、あってないようなものだからです。 ホスト家族とのコミュニケーションがうまくいかない、喫煙者がいる、食べ物が口に合わないとかお粗末だとか (家族も同じものを食べている場合に限りる)、下品である、貧困家庭である、子供たちが騒がしくて勉強できないなどの問題は、 家族の一員として受け入れられてから生じるものだからです。とは言っても、個々の事例をどこまで許せるかどうかについては、 留学団体、留学生本人、OG/OBと呼ばれる帰国生、保護者がしっかりと意識しなければいけないことだと思います。

 現地での状況ですが、ホストからの性的虐待のように誰が聞いても許せないレベルのものから、 ネグレクト虐待といわれるもの、限りなくそれに近いものから状況判断の難しいものまで様々です。 クレイジーホストにはじまり、ボランティアポイントを稼ぐため、ベビーシッターや家政婦代わり、家計を少しばかり潤すためのものから完全なるビジネスまでもと、 文科省が定義しているプログラムとは程遠い劣悪な環境に放り込まれる子どもたちがいるのです。 人生経験がまだ少ない高校生の場合、急激な環境下で思いがけない事態に直面すると、混乱状態に陥り判断を誤る場合があります。 どこの国に行ってもおかしいことはおかしいはずのものが、日本を離れた途端に判断できなくなり、 ホスト先での劣悪な環境(極度に不衛生な状態、ネグレクト虐待、猥褻行為など)さえも受け入れてしまう子供もいるのです。 高校生といえどもまだまだ子供なのです。子供を送り出すと決めたなら、交換留学の被害状況を把握することで、 団体にまかせっきりの留学にならないようにしてください。

 子供たちにも、「いいことばかりじゃないよ」「こんなトラブルは君のせいではないよ」「現地のボランティアって日本のそれとは違うものだよ」 「女の子は寝る時には部屋の鍵をかけること」「人が集まる場所では自分の飲み物から目を離さない(ドラッグ被害)」 「銃を向けられた場合に取るべき行動とは?」「トラブルに巻き込まれたら自分の意見をしっかり届けられるほどの英語力がいるよ」など、 いっぱいいっぱい知っておいてほしいのです。これから被害に遭うかもしれない子どものために、大人に裏切られ傷ついた子どもからの信頼を取り戻すためにも、 わたしたち大人が何を感じ何を大切にしようとしているのかを、子供に伝える必要があると思います。

・子どもの話を徹底的に聞く

 子どものいじめ問題でもそうですが、何か問題が生じた場合、当事者である子どもからの話しが最初に出てこないことに違和感を感じています。 留学生活においても、結果としてトラブルの原因が学生にあったとしても、まずは子どもの言うことに耳を傾けたいと私は思います。 団体側の言うことよりも、子どもの話を聞くことです。そしてトラブル発生時には、親子の信頼関係が要になると同時に、最も難しい問題でもあるので、 次のことをしっかり覚えておきましょう。まず、留学団体は子供からのクレームに対し「強制帰国」という脅しを使ってくるので、 子供は親にさえトラブルを伝えにくいということです。また、事を有利に進めたい留学団体は教育的役割の立場を悪用し、親は子供を守り子供は親に守られる、 という親子関係を「過保護」と決め付けて分断しようとするかもしれません。 本来は当たり前の基本的親子関係を、あたかも恥ずかしいことだと信じ込まされないように、親も子も注意する必要があります。 親と子の信頼関係なしに、海外でのトラブルや被害から子どもを守ることはできません。親子の信頼関係がしっかりしていれば、親以外の大人に対し、 信頼できる人とそうでない人を区別できるセンサーが働くからです。留学中は定期的に連絡を取り合うようにすべきです。 トラブルによっては、団体など無視して現地に飛んで行きホストと直談判することも必要だからです。

・主導権はどちらにある

 受入れに関わるすべての人たちがプログラムへの参加者であるとはいっても、100万円以上の費用を払うのは留学生の親なのです。 それなのに説明会やオリエンテーションで話しを聞くうちに、本来は一番の主役である子どもと保護者が団体のいいなりになるという、 力関係の逆転現象が起きてしまうのです。中でもYFU、AFSの説明会はこの傾向が強く、カルト宗教やマルチ商法に通じる独特の雰囲気を私は感じました。 留学生活がスタートすれば、かなりの部分、現地団体側に主導権が移ってしまうのは仕方ないとしても、 出発前の段階で主導権が奪われないよう気をつけましょう。

・これらの言葉に注意を

 「原則的」「自己責任」「アライバルホスト」「有償」「無償」「ボランティア」「補助金」「一部負担金」「プログラム離脱」「早期帰国」等など、 団体側から浴びせかけられるこれらの言葉を鵜呑みにしないことです。「有償ボランティア」のことは、すでに「高校交換留学における被害と問題点」のところで取り上げているので、 ここでは「アライバルホスト」について書いてみます。そもそも「アライバルホスト」だなんて、おかしな話しだと思いませんか。 団体独自のガイドライン(「募集要項」「参加規程」などといわれるもの)には、ホストファミリーが決まらなかった場合には全額返金の対象となると書かれていないでしょうか。 じつは、ホストファミリーが決まらず、現地スタッフの家で仮住まいをしながらホストファミリーを探すことが当たり前に行なわれています。 日本の団体は、ホストファミリーが決まらなければ全額返金しなければならないので、ホスト家庭が決まっていなくても、決まったことにして留学生を送り込んでいるのです。 どう考えても、「申し訳ございませんがホストファミリーが見つからないので留学は断念せざるを得ません。 ただ、このような方法で良ければ話を進めることもできますが」と確認を取っているとは思えません。渡航させれば後のことは現地団体任せになるので、 「アライバルホスト」などという訳も分からない造語を用いて、見切り発車させているわけです。 保護者に対しきちんと説明されていない現状を考えると、お金欲しさに子供を送り込んでいると思われても仕方ありません。 また、「自己責任」などという言葉も、大人同士、対等な力関係の下で使われるのならともかく、大人が子供に対して安易に使うものではないと私は考えます。 未成年の交換留学において、最終責任者でない者に責任を問わせるようなやり方は、責任転嫁以外の何ものでもありません。

・準備できる事とは

 留学期間中は親子の信頼関係が最も重要です。いつでも親に連絡できる環境を確保することが、トラブル回避・対処には欠かせません。 留学団体には避けるようにと言われても、出発前までにPCや携帯電話等での連絡手段は必ず整えておきましょう。

 また、留学は楽しいものであるべきとの思い込みからトラブルを軽視してしまうと、それらが積み重なって後々負担となることがあります。 留学生として心得ておくべきことは、トラブルの大小にかかわらず、その都度きちんと対処することです。 トラブル内容によっては、親から留学団体に連絡してもらうことの方が良い場合があります。 いずれにせよ、我慢しないで信頼のおける大人に相談することが大切です。

 親として出来ることは、トラブルの原因が団体側にあるのに改善する様子がみられない場合には、 保護者の方からプログラムを中止して全額返金(見舞金も)してもらうことです。 「強制帰国」は、なにも留学団体の専売特許ではありません。そのためには早期の帰国も想定して、いつまでに学校に戻ればダブらずにすむのかを (出席日数が足りるのかを)在学校の先生に尋ねておきましょう。トラブルが発生した場合、団体との交渉内容はすべて録音しておき、 話の内容はメモするように習慣づけてください。あと、ネットワークの観点からは、同じ斡旋団体の父兄の方々ともコミュニケーションが取れるといいでしょう。 何かあった時に、自分達の抱えている問題が特別なものでない事がわかると思います。

・団体側との交渉に際して

 保護者からの苦情に対しては、そのように不平不満を言うのはお宅だけですよ、といって威圧的な態度をとることで、 父兄に不安を与え要求を諦めさせます。それが通じない保護者には、担当者を次から次へと変えるなどして時間稼ぎをする、 話をややこしくして面倒と思わせ諦めさせる等、ありとあらゆる手段で対抗してきます。 話し合いでは決着がつかず裁判にまで持ち込まれる場合もあるのですが、団体側としては一番避けたいケースのはずです。 美味しい話をちらつかせたかと思うと、専属の顧問弁護士の名前を出してみたり、他言したら不利益をこうむるぞと言わんばかりに、 保護者には「在学校の校長に話すぞ」と言い、学校の先生には「教育委員会や文科省に言いつけるぞ」と言って脅しにかかります。 それでも心配することはありません。実行された試しなどないからです。なぜなら、国から認可を得ているとか、 役員名簿に社会的地位の高い人や著名人をはべらしたり、団体HPの紹介に米国のクリントン女史が出てこようと、 その実態はただの斡旋業者に過ぎないからです。観光ツアーの変わりに教育提供プログラムを扱っている旅行会社だと考えて下さい。 団体側が脅してきても(このことの方が大きな問題です!)結果は後からついてくるものとして、毅然とした態度で正当な要求を通していくことです。

 そのためには、怒りの感情に振り回されることなく冷静に対処しましょう。 交渉の際には、少しでも不明瞭な部分があると、相手のペースにはまってしまうので注意してください。 それに、アレもコレも話すと、ごまかされてうまく逃げられてしまいます。言い間違いから揚げ足を取られないためにも、 書面を提示して書かれていることのみを何度も繰り返し話すことで、相手側の落ち度を明らかにしていきましょう。たとえ団体側から脅し文句でゆさぶりをかけられても、 丁寧かつ厳密に反論していければ、それなりの回答が得られるはずです。交渉が不得手な人は、交渉内容は文書にして、口頭での話し合いはなるべく避けるようにします。 なんといっても交渉相手は、成田空港で我が子の留学を台無しにされた父親から胸倉を掴まれても、一歩も引かない百選練磨のプロだということです。 とにかく話術では敵いませんので、団体側の矛盾点を文書で指摘するように心がけましょう。

 あと、これは<子どもの話を徹底的に聞く>に書いてあることとも重複する内容ですが、有利に事を運ぶために、 家族(夫婦)を対立・分断させるのも彼らのやり方なので注意が必要です。そのためには交渉の前に家族同士で十分に話し合うことが大切です。 団体からの提示(賠償金額等の)に対しても、意見の一致を図っておかないと家族(夫婦)関係がギクシャクしてしまい、交渉どころではなくなってしまう場合もあるからです。 留学業界の人たちはかなり手強いので、交渉スタート時の怒りを持続するのも大変ですし、交渉自体も正直疲れるものです。 ある意味、夫婦や家族の絆が試されるときなのかもしれません。

・二次的被害に遭わないためには

 それでは次に、弁護士などを通じて被害の示談交渉・訴訟をする場合の注意点について書いてみます。 但し法律については全くの素人なので参考程度にお願いします。一般的には知人や友人からの紹介がない場合には、各自治体にある相談窓口、 地区の弁護士会等で相談することになると思いますが、大金を払って留学で被害に遭い、弁護士などに相談して無駄な出費を重ねてしまうことにならないよう注意しましょう。 じつは、留学団体からの謝罪が欲しいがために弁護士などに相談するというケースがよくあります。 しかし、謝罪で気がすむ留学被害者ほど斡旋団体にとって都合のいい顧客はいませんし、弁護士にとってもそれ相応のお金の返済という具体的な成果なしで報酬を得られるなら、 これほど都合の良いクライアントはいません。 留学被害にあって、弁護士費用を支払って、被害やトラブルがあるとわかって商売している留学団体から名ばかりの謝罪や誠意を求めるのは無意味なことです。 留学団体のあり方を変えるためには、(あえていわせてもらえれば)被害者の義務としても、留学団体にとって痛い方法で謝罪を求めなければなりません。 悲しいことですがお金だけ取れればよい、そう割り切って考えることが大切です。

 あと参考までに、留学に通じた弁護士を抱えている「***留学協会」もあるようですが、留学によって生じるトラブルからも儲けてやろう、 みたいな考えを持っていないとは限りません。弁護士選びは2~3件まわって比較するようにしましょう。 ネットで情報を得ることも大切ですが、安心して任せられるかどうかは自分自身の目と耳で判断すべきです。

・「飼いならされた被害者」にならないために

 留学被害の対応に関わってきた私が常々大切だと思うのは、害を被った側が第三者的な目で自分自身を見つめることです。 これは大変難しいことで、どうしても「加害者としての留学団体」と「被害を受けた私たち」という当事者関係に巻き込まれてしまいがちです。 このことは第三者に間に入ってもらう場合でも同様です。第三者と話している自分、第三者と自分の関係、自分と第三者と留学団体側との関係を、 常に外から第三者的に見つめることで、留学団体側や第三者といった他の誰かではなく、被害者である自分が主導権を持つことが大切なのです。

 特に気を付けないといけないのは、第三者を立てることによって、話し合いなのだから感情的にならないでほしい、 といった留学団体側からの牽制が第三者を介して被害者側に届くということです。交渉にあたっては、被害者側が感情的にならず、 相手の話に対して冷静に対応することはいうまでもありません。とはいってもそれは戦略的な理由から冷静を装う為のパフォーマンスであって、 被害者自身の感情を押し殺してしまうことではありません。感情的な部分を大切にしなければいけないと思います。 人前で怒りを顔や言葉に出すことは大人げないと考え我慢すると、留学団体側の牽制に引っかかってしまいます。あえて意地悪な言い方をすると、 加害者側や周りの人たちから、「冷静な大人の対応ができるのは素晴らしいことですね」と言われた被害者が褒められたと思って嬉しがっている、 という感じです。留学団体側は、私たちが「いい人だと思われたい、いい人になりたい」と思って自発的に受け入れてしまうような社会通念や倫理といったものを利用してきます。

 これらのことからも、自分や周りの人間から見て「良し」とされていることほど疑い深くあるべきなのかもしれません。 たとえば弁護士や留学団体との関係の中で自分がどのような動きをしているのかを、第三者としてのもう一人の自分がしっかり把握することです。 留学団体側からの牽制を知らず知らずのうちに内面化してしまって「飼いならされた被害者」になってしまわないように気をつけましょう。

・被害者自身が考えることは

 たとえば、「このようなことになって大変だったと思いますが楽しいこともあったのではないですか。 やはり留学の経験はすばらしいものがありますよね。」というようなことを、留学団体だけでなく周りの人たちからも言われるかもしれません。 このような無責任で暴力的な言葉に対しどう切り返していくのか、それを考えておくことも大切だと思います。 深く考えずに何でもかんでもネガティブをポジティブに!といったものの言いかた、つまり一般的に「良い」とされている考え方に批判的になっていくことこそが、 留学被害への抑止力となり、日本のグローバル化を本当の意味で支えることになると私は思っています。

≪将来に向けて≫

 国際社会において日本人が相手にされない理由は、たとえ英語で話せたとしても自分の意見を持っていないことだと思います。 かといって何処かの誰かさんのように、国際会議の場で「シャラップ!」を連呼するのは以っての外ですが、 自分の仕事に誇りを持っている人間が本気で相手と関わろうと思えば、言わなくてはならない事もあるはずです。 また、そのへんの問題意識を持たない人は、いくら英語ができても英語が話せるだけの日本人止まりでしょう。 ちょうど私が問題視している団体関係者のようにです。現地の交流団体に対して言うべきことを言ってこなかったことが、 被害の拡大をもたらしたともいえます。国際社会における日本のあり方という観点から見ても非常に残念なことだと思います。

 留学被害においては、伝えるべきことが言える自立できた学生もいますが、滞在先でネグレクト虐待があっても大人の言いなりで何も言えない、 言わない学生が大半のようです。このタイプの子どもたちは、団体関係者にとっては扱いやすい「いい子」なので、 こっぴどくやられることも強制帰国させられることもなく留学そのものは終えることになるのでしょう。でも、このような若者が大人になって、 文科省が「高校生海外留学支援制度」の中で求めているような、主体的・積極的に国際社会に貢献できる人材になれるのかというと、 私は疑問に思います。被害者を無視して力のある人や強い組織を支援することが社会に貢献することだというのなら、 それはそれでOKなのかもしれません。しかし、何を大切に思い、何に貢献するのか、「社会のため」「誰かのため」の 「社会」「誰か」が意味するものとは何でしょう。貢献しようと思う、そのずっと先にあるものとはいったい何なのでしょうか。 自身の考え方や生き方を問うことも忘れないでほしいものです。