被害やトラブルが知らされないその背景

 イメージ的には非常に開放的な響きのある高校生の「交換留学」ですが、極端に閉鎖的な環境のもとで運営されているため、 これほどのトラブルや被害があっても外部に知らされることはありません。 下記の≪被害やトラフ゛ルが知らされない理由≫からわかることは、 交換留学被害は社会問題としての様々な特徴と構造をすべて持っているということです。 ここでは事業者側の裏事情だけでなく、当事者である高校生とその保護者、学校の先生、 留学経験者、それぞれが抱える問題についても触れてみます。

◇留学団体は

 当初の理念よりも経営が優先され、組織の存続が重要視されてきた結果でしょうか、 留学関係者は、プログラムの主役である子どもたちのサポートよりも、組織のために尽力しているとしか思えません。 子供たちのためにプログラム内容を充実させることよりも、父兄からの問い合わせや抗議、 トラブルを押さえ込むことが一番の仕事になっています。団体職員としての長年の経験と実績からくる、 飴とムチを使ってのコントロール、上から目線で有無を言わさず従わせるその雰囲気に、 たいていの留学生と親は飲み込まれ、団体側の明らかなミスに対してさえも泣き寝入りを強いられています。 団体の諸問題については、別ページ「留学斡旋団体とは」で更に詳しく書いています。

◇学校の(英語の)先生は

 言語を教えることには熱心な先生でも、海外事情には疎く、留学被害やトラブルに対する認識は、 これから留学しようとしている生徒や保護者とあまり変わりありません。 次の事例は、交換留学の話しではなく、ある私学が毎年行っている中高生のための「海外交流校訪問プログラム」 での事ですが、リーダーとしての危機意識や危機管理の在り方について考えてみてください。 じつは、その子供たちの宿泊先が極めて治安の悪い地域であるという情報が、現地の学生から私のところに入りました。 私は教師が引率するのなら大丈夫だろうと思ったのですが、万が一の場合を考えるとやはり気になりました。 教師が知っているのならまだしも、業者に任せきりで、滞在先の治安状況を把握していないケースがけっこうあるからです。 さらにはその旅行会社も現地の情報を正確に把握しているとは限りません。 そこで私は、「海外交流校訪問プログラム」を担当している教師のことをよく知る人物にお願いして、この事を伝えてもらったのです。 ここで皆さんに質問ですが、あなたがその学校の教師だとして、連絡を受けた場合に取るべき行動とは? じつは、情報提供者からは詳細について応じる用意があると聞いていたのに、連絡を受けたはずの教師からのリアクションが全く無かったのです。 ちなみにこの教師は英語の先生でしたが、私なら又聞きで終わらせるなんて考えられません。 子供の安全確保のためには、事の大小を問わず安全対策を再確認するためにも、情報提供者に連絡を取り直接話しを聞くべきだと思いますが、 みなさんはどのように感じられますか。

◇留学生側は

 トラブルや被害問題に消極的なのは、国や留学斡旋団体、英語の先生だけではありません。 保護者も文科省からの認可や支援がある斡旋団体であれば信頼できる、という神話に囚われているようです。 それならいっそのこと、リスクやトラブルもあって当たり前の『高校交換格安留学』とでも呼び方を変えたほうが良いと思うほどの、 危機意識の欠如です。被害を被害として認識できない、被害だと認めたくない、これくらい大したことではない、 交換留学なのだからそれも良しとしよう、と考える人の多いことに驚かされます。 多少なりともトラブルはつきものなので我慢すべきだという風潮が、深刻な被害を受けている被害者に対して泣き寝入りを強いていることも確かです。 つまり、被害者本人が気づかないままに、さらなる被害者を生む「負のスパイラル」に陥ってしまっているのです。 これでは留学団体の思うツボです。彼らに批判の矛先が向かないからです。 このように被害やトラブルまみれの高校交換留学を支えてきたのは、じつは留学先での被害を黙認してきた被害者自身であり、 その親でもあるのです。さらには中学校などでのいじめの問題とも重なりますが、被害者を傍観するだけで、 自分は無関係だとして被害を見逃してきた、多くの留学経験者にも責任があるといえるでしょう。 自分たちの留学体験はすばらしく有意義だったのなら尚更、「私がその人の立場だったら、どんな気持ちだろう」 「私にできることはないだろうか」と、思いをめぐらせてほしいものです。

≪被害やトラブルが知らされない理由≫

・「高留連」「JAOS(一般社団法人海外留学協議会)」「JASSO(独立法人日本学生支援機構)」のいずれもが、交換留学を推進している文科省が支援する団体組織なので、クレームの窓口が外部機関に無いため情報が外に出ない。(注:「高留連」はすでに解散している)

・留学団体は、被害やトラブルがあっても過小評価して隠せるものは隠す。

・自立の妨げになるという理由で、携帯電話やパソコンの所持禁止、親や友人との連絡も避けるようにと徹底した事前教育が行われるために、トラブルがあっても他に伝わらない。

・留学を奨励している一部の学校を除くと、大学受験への影響もあって留学には慎重な考えを持つ先生がほとんどである。したがって留学を強行した場合には尚更、被害があっても学校の先生に報告しにくい。学校側としても留学トラブルには関与したくない。学校の英語の先生もトラブル問題には逃げ腰である。

・15~18歳という年齢では状況判断が不十分な子どもが多いので、よほどのことがない限り被害を受けたという自覚がない。あるいは、うまく丸め込まれ納得してしまう。

・害を被っていてもそれを認めたくない、あるいは知られたくないということで、留学が順調であるかのように振舞う子どもが以外に多い。

・お世話になった団体で支援活動している帰国生とその親の多くは、団体が抱える被害の実態を、知りたがらないし話したがらない。

・保護者は文科省からの支援を得ている団体というだけで、無条件に留学関係者のいうことを信じる傾向があり、子供からのSOSを見逃してしまう。

・例年3ヶ月以上の高校生の留学派遣数は3000人前後で(留学生数の推移はトップ・ページで要確認)親も子も学校の先生も情報量に乏しい。

・現地側の不条理な言い分であっても、強制帰国させると脅かされると、単位認定のことがあるので親も子も黙るしかない。

・文化の違いだけでなく、子供はもちろん斡旋団体職員もトラブル解消に必要なコミュニケーション能力が不足しているので、現地の交流団体のいいなりになってしまう場合が多い。

・現地の団体がいいかげんであっても、海外でのことだけに知ることができない。

・交換留学の期間は1学年間(約10ヶ月間)なので、帰国してしまうと少々のトラブルや被害の場合はあきらめるか、忘れたことにしてしまう。

・団体に対し、正当な権利として慰謝料(見舞金)を要求するのではなく、口止め料として受け取る親がいるので被害が外部に知らされない。