先月26日、NYで日本人の男子高校生が行方不明になるというニュースがありました(※1)。 犯罪に巻き込まれた可能性もあったので、2日後に無事保護されたと知り胸をなでおろしたのは私だけではなかったと思います。 ネット上でも話題になり「高校生にもなって迷子になるなんて情けない!」「助けを求めるなり連絡する方法があっただろう!」等のコメントが数多く寄せられていました。 これらの批判的な書き込みがわからなくもありません。
ただ、学生があのような行動を取った理由を、彼の目線で考え想像してみようとする態度が必要ではないでしょうか。 報道されている事だけではわからない事情も、あったのかもしれないのです。 上のようなコメントをする人たちが、たとえ生徒を引率したところで、恐らく何も変わらなかったでしょう。 むしろ、このような想像力の欠如こそが、今回のような問題を生じさせていると思います。
この度の出来事は、生徒の未熟さだけに目を向けてしまうと、事の本質が見えなくなる恐れがあります。 学校長は取材に対して、「現地で生徒を引率していたのは旅行業者の添乗員ら4人。業者からは地下鉄が込んでおり、乗り換えが複雑だったうえ、運行停止もあったため点呼が取りづらかった」と説明されたと言い、「保護者には不安にさせて申し訳なかった。業者には詳しい説明を求めたい」と答えています。(※2) このことから、今回の研修に教師は同行しておらず、業者に任せきりだったことがわかります。 危機管理のあり方を考えると、たとえ海外語学研修であっても、学校が関わる限りは業者(日本の旅行会社、現地スタッフを含めた海外の旅行会社)に丸投げでは絶対にいけません。 今回のように大人では考えにくい行動でさえも、彼が高校一年生(体は大人並みでも今年の春まで中学生だった)であったことを考えると、日常的に多くの子供と接し、彼のことをよく知っている教師であれば、もしかしたら予想できたことかもしれません。 人生経験がまだ少ない中高校生が、環境の変化などから思いがけない事態に直面すると、混乱状態に陥り、判断を誤ったり、活動のレベルが極端に低下したり、大人にとってはたいしたことのない失敗でも深く傷ついてしまう場合があります。 この傾向は交換留学被害ではより顕著で、ホスト先での劣悪な環境(不衛生な状態、ネグレクト虐待、猥褻行為など)さえも、受け入れてしまう子供たちがいます。 どこの国でも、おかしいことは「おかしい」はずのものが、日本を離れた途端に判断できなくなるのです。(留学斡旋団体にとっては好都合です) 観光庁のHPには、「海外修学旅行マニュアル」が掲載されています。
この中に想定内トラブルとして、「地下鉄を乗り間違えて迷ってしまうなど、グループ行動でトラブルが生じる可能性はあります。携帯電話を持たせる措置はしていても、生徒がその存在に気づかないほどパニック状態に陥って連絡がつかなかったという事例もあります」と書かれています(※3)。 そもそもラッシュアワーに地下鉄で集団移動させること自体が非常識だし、子供がはぐれてしまった時の対処法を幾重にも確保できないような大人が、生徒を引率している事が問題なのです。 日本で海外研修やら留学プログラムを声高に推進している人たち(文科省や教育委員会、AFSやYFUなどの留学斡旋団体)の危機管理に対する意識レベルも、案外この程度のものなのかもしれません。 そのうえ送り出す側の教師も親も海外事情に疎いとなれば、さらにリスクが高まります。(学校の先生が同行したところで不安が払拭されるわけではありませんが) ちなみに今回のツアーを企画したのは(株)アイエスエイ(東京都港区)で、安全シールをペタペタ貼る「留学サービス審査機構」から認証マークをもらっています。 私が危惧しているのは、自分の経験、立場からしか物事を考えられない大人が多いことです。 もちろん人は経験から学ぶこともいっぱいあるわけで、今回の事件から海外研修での子供の安全管理の必要性に気づいた先ほどの校長先生もそのおひとりです。 しかし、想像力の欠如は時として命に関わるようなことにもなりかねません。 大人は子供に対して、面倒くさいからと自らの想像力に蓋をすることだけは絶対に避けたいものです。
(※1) ANN NEWS「NYで不明の高校生保護」2013年7月26日
(※2) 産経新聞 2013年07月28日現在すでに削除されていますので下記の埼玉新聞記事を参考にしてください。 米国ニューヨークでツアーに参加していた私立城北埼玉高校(川越市古市場)1年生男子生徒(15)の行方が分からなくなっていた件で同校は27日、男子生徒が無事保護されたとの知らせが生徒の父親から27日未明に同校に入ったと明らかにした。 生徒は元気で、行方が分からなくなった現地時間24日夕方から約1日半ぶりとなる26日午前、 ニューヨーク中心部のタイムズスクエアに1人でいるところを、報道で知っていた米国在住の日本人が声を掛けて発見したという。現地の総領事館から東京都東村山市の生徒の自宅に連絡があり父親が学校に知らせた。 同校によると、生徒は地下鉄で仲間とはぐれ一人で行動していたらしい。メトロポリタン美術館から宿泊先に戻る際に使った地下鉄は、車両故障により乗換えが生じ、ラッシュ時とも重なって混雑していた。タイムズスクエアは26日にもともとツアーの研修で訪れる予定だった場所で、生徒はそこに行けば仲間に合流できると考えて訪れたという。知らせを受けた同校の染井良之教頭は「ほっとしている。本当に無事で何より。あとは本人が元気で戻ってきてくれれば」と声に安ど感がにじんだ。生徒本人の動揺も予想されるため、メンタル面のケアも考慮しながら、温かく迎える準備を始めている。 <埼玉新聞 7月27日(土)13時43分配信 >
(※3) 国土交通省外局観光庁「海外修学旅行マニュアル」20頁
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