海外における危機管理教育が日本では全く行なわれていません。高校生の交換留学でも現地に夜間到着した際にスタッフの迎えが一時間以上遅れる、来るはずの迎えの人がこない場合があります。空港から滞在先への移動途中、公共交通機関であるバスや電車内で怖い思いをした話を良く聞きます。知らない土地で夜間だと不安を覚えるだけでなく窃盗や性被害、暴力事件のリスクも高まります。
以前ルーマニアで二十歳の日本人女子学生が夜間到着後に殺害されるという痛ましい事件*がありました。 ルーマニアの地元メディアは殺害方法の残虐性から検死結果を付してまで連日大きく取り上げ、オランダにあるAISEC本部とAISECブカレストも、事件発覚後ただちにHPで被害者への哀悼の意と責任を認めるコメントを出しています。それなのに日本AISECは事件発覚と同時にHPはなぜか繋がらない状態で会見も開かずマスコミからの取材に対してもいっさいノーコメントでした。3日後にようやく公式サイトに「ご遺族のご意向を踏まえ、本件に関して一切の説明を差し控えさせて頂きます」 とのコメントを掲載したものの、謝罪も被害者への哀悼の言葉すらありませんでした。このプログラムを実施したアイセック日本の不可解な態度に対する日本のメディアの対応についても酷かった印象があります。 おそらくはあまりにも悲惨な事件であったため、娘の名誉を守るためにも騒ぎ立てたくないというご遺族の意向に、日本AISEC側の利害が一致したのだと思われます。
しかし、運営は大学生に任されているとはいえ、日本AISECがNPO法人として組織運営している限り社会への説明責任はあったはずです。普通の旅行会社であれば、社長や役員が出てきて謝罪会見があるはずなのに、政治家、経団連、有名大学の教授、多くの著名人がバックについている巨大組織だからでしょうか、今日まで渡航をアレンジした日本AISECに対するメディアからの追求は見事になく、警告、再発防止の機会も失われたままなのです。結果、危機意識のないお嬢さんが見知らぬ男について行き被害に遭ったという被害者への配慮の無い報道のままで終わっているのです。
被害者のその場の状況は本人にしかわからないのです。ご遺族の方々の思いも考えるとできるだけ被害者に近い目線でものを考えていかなければならないのに、事件発生後からの日本AISEC側の対応からは一歩間違えば自分も同じような目に遭っていたかもしれないという誠実なものの考え方が感じられませんでした。被害に遭ったのは20歳の大学生でしたが、調べれば調べるほど事件の背景には高校生の留学被害と同様の根本的な問題があります。このような海外インターンシップの場合、NPOとは名ばかりで運営そのものは留学斡旋団体と似た組織構造です。団体は手数料を取ってインターン先を紹介し現地までの手配を行います。「就活に有利」等のふれこみで、現地の状況も知らない責任感のない学生スタッフが競って未熟な学生を送り込んでいるのです。
隣国ウクライナ在住だった知人にこの事件について問うてみたところ、プログラムを組んだ日本の団体も当然責任を取るべきだと聞かされました。 夜に若い外国人女性が一人で行動するのは相当危険な行為であること、残酷な殺人・暴行事件が度々起こっており、 男性で気をつけていても夜道で若者数名に羽交い絞めにされお金を奪われたり自宅に何度も泥棒にも入られたりしたそうです。それにしても彼女や彼女の家族の方たちには、夜到着というスケジュールだけは飲まないでほしかった。それでも団体が強要してきたのなら止めるべきだったと悔やまれてなりません。しかし実際にはこのように送り出すことも多かったはずです。特に知らない土地ではたとえ治安がいいと言われる地域であっても、夜間の外出や一人歩きは避けるくらいの危機意識が重要です。
東洋経済オンライン「留学先で「性被害」?危機を招いた意外な原因」
ルーマニアで邦人女子大学生が殺害された事件(2012年 TV動画)
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